大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成11年(行ケ)334号 判決

原告

有限会社グッド・エンタープライズ

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

飯塚孝

荒木理江

同弁理士

被告

特許庁長官C

指定代理人

被告補助参加人

ザ ポロ/ローレン カンパニー リミテッド パートナーシップ

代表者

訴訟代理人弁理士

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成6年審判第18425号事件について、平成11年8月9日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成3年5月30日、「POLO COUNTRY」の欧文字を横書きした構成よりなる商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令別表(以下「旧別表」という。)による第17類「被服(運動用特殊被服を除く。)、布製身回品(他の類に属するものを除く。)、寝具類(寝台を除く。)」として商標登録出願をした(商願平3ー56120号)が、平成6年10月14日に拒絶査定を受けたので、同年11月7日、これに対する不服の審判請求をした。

特許庁は、同審判請求を平成6年審判第18425号事件として審理したうえ、平成11年8月9日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年9月8日、原告に送達された。

2  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、「POLO」の欧文字を横書きした構成よりなる商標(以下「引用商標」という。)が、Jのデザインに係る被服類及び眼鏡製品に使用するものとして遅くとも本願出願前までにはわが国において取引者・需要者間に広く認識され、周知・著名な商標に至っていたものと認められ、その状態は現在においても継続しているところ、本願商標をその指定商品である被服等に使用した場合には、これに接する取引者・需要者がその構成中の「POLO」の文字に注目し、引用商標を想起して、該商品がJ又は同人と組織的若しくは経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのごとく、出所の混同を生じるおそれがあるから、本願商標が商標法4条1項15号に該当するとして本願を拒絶した原査定は取り消すべき限りでないとした。

第3原告主張の審決取消事由の要点

1  審決は、本願商標をその指定商品である被服等に使用した場合に、出所の混同を生じるおそれがあるものと誤って判断した結果、本願商標が商標法4条1項15号に該当するとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

2  取消事由(15号該当判断の誤り)

(1) 審決が、引用商標の周知・著名性の認定(審決書4頁末行~8頁9行)において掲記した各刊行物の大部分において、引用商標は、「POLO BY RALPH LAUREN」、「ポロ・ラルフローレン」のように「BY RALPH LAUREN」や「ラルフローレン」等の表示とともに用いられている。そして、この点は、引用商標を使用した商品の販売店の名称、広告、商品のネームや新聞の紹介記事においても同様である。

他方、本願商標は、「POLO COUNTRY」の欧文字を横書きした構成よりなるのであるから、本願商標を被服等の商品に使用した場合であっても、出所の混同は生じ得ない。

(2)  上記のことは、「POLO」又は「ポロ」の文字を構成中に含む多数の商標について設定登録がされていること(甲第6号証の1~11、第7号証、第8号証の1)からも明らかである。

特に、本願商標は、平成8年法律第68号による改正前の商標法7条に基づき、平成元年7月5日の登録出願(商願平1ー76368号)に係る商標(平成9年11月21日設定登録、登録第2723627号、以下この商標を「2723627号商標」という。)の連合商標として出願されたものであるところ、2723627号商標は、「POLOCOUNTRY」の欧文字を横書きした構成よりなり、旧別表による第17類「被服(運動用特殊被服を除く。)、布製身回品(他の類に属するものを除く。)、寝具類(寝台を除く。)」を指定商品とするものであって、本願商標は、その構成上、字体がゴシック体であり、「POLO」の文字と「COUNTRY」の文字との間にスペースが設けてあるほかは、2723627号商標と同じであり、指定商品もこれと同一である。そして、2723627号商標の登録出願は、一旦拒絶査定を受けたが、これに対する不服の審判の審決により、拒絶をすべき理由がないものとして登録されたものである。

しかして、商標の登録出願に対し、商標法4条1項15号に該当するとして拒絶査定をする場合には、出願に係る商標が、査定時(審決時)のみならず、出願時においても同号に該当しなければならないのである(同条3項)から、本願商標が同条1項15号に該当するとした審決は、過去の実務例に反するものであり、その判断は誤りというべきである。

第4被告の反論の要点

1  審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

2  取消事由(15号該当判断の誤り)について

(1) 昭和53年7月20日発行の「男の一流品大図鑑」(乙第1号証)、昭和58年9月28日発行の「舶来ブランド事典’84ザ・ブランド」(乙第2号証)、昭和55年4月15日発行の「海外ファッション・ブランド総覧1980年版」(乙第3号証)、昭和57年1月10日発行の「月刊アパレルファッション2月号別冊海外ファッション・ブランド総覧」(乙第15号証)、昭和63年10月29日付日経流通新聞(乙第5号証)等の刊行物によれば、審決が認定したとおり、米国在住のデザイナーであるJが、1967年に幅広ネクタイをデザインして注目され、1968年にポロ・ファッションズ社を設立して、ネクタイ、シャツ、セーター、靴、かばん等のデザインをはじめ、トータルな展開を図ってきたこと、同人は、1971年には婦人服デザインに進出し、また、1970年と1973年に「コティ賞」を受賞したほか、数々の賞を受賞し、1974年には映画「華麗なるギャツビー」の主演俳優Kの衣装デザインを担当して、米国を代表するデザイナーとしての地位を確立したこと、その頃から、同人の名はわが国服飾業界にも広く知られるようになり、そのデザインに係る1群の商品には、横長四角形中に記載された「Polo」の文字とともに「by Ralph Lauren」の文字及び引用商標の各標章が用いられ、これらは「ポロ」の略称でも呼ばれていること、わが国では、昭和51年に西武百貨店が、ポロ・ファッションズ社から使用許諾を受けて、昭和52年よりJのデザインに係る紳士服、紳士靴、サングラス等の、昭和53年からは婦人服の輸入販売を開始したことが認められる。

また、Jのデザインに係る紳士服、紳士用品が、前掲「男の一流品大図鑑」(乙第1号証)、「舶来ブランド事典’84ザ・ブランド」(乙第2号証)のほか、昭和55年11月20日発行の「男の一流品大図鑑’81年版」(乙第9号証)、昭和55年6月第二刷発行の「世界の一流品大図鑑’80年版」(乙第10号証)、昭和56年6月20日第二刷発行の「世界の一流品大図鑑’81年版」(乙第12号証)、昭和53年9月20日発行の「別冊チャネラー ファッション・ブランド年鑑’80年版」(乙第8号証)、昭和60年5月25日発行の「流行ブランド図鑑」(乙第13号証)等の刊行物において、「POLO」、「ポロ」、「Polo」、「ポロ(アメリカ)」等の表題の下に紹介されていることも、審決の認定したとおりである。

そして、これらの事実に基づけば、引用商標が被服類等において、本願出願前に周知・著名な商標であったことは明らかであるところ、本願商標は引用商標「POLO」と「COUNTRY」とを結合してなるものであるから、本願商標を指定商品に使用するときは、引用商標を想起ないし連想することが少なくなく、出所の混同のおそれがあるものであり、本願商標が商標法4条1項15号に該当するとした審決の認定判断に誤りはない。

(2)  「POLO」又は「ポロ」の文字を構成中に含む多数の商標について設定登録がされていること、2723627号商標の登録出願から設定登録までの経過及びその指定商品は認める。

2723627号商標を含むこれら多数の先登録例は、引用商標との関係のみでいえば、引用商標が周知・著名性を獲得した時期と、これらの先登録例に係る登録出願時期との関係で、当該各先登録商標が商標法4条1項15号に該当するかどうかが、個別、具体的に判断されたものであり、これら先登録例が存在することのみによって、本願商標が同号に該当することを否定することはできず、また、本願商標についての同号該当性の判断が先登録例に拘束されるものでもない。

第5当裁判所の判断

1  取消事由(15号該当判断の誤り)について

(1) 審決の挙示する昭和53年7月20日発行の「男の一流品大図鑑」(乙第1号証)、昭和58年9月28日発行の「舶来ブランド事典’84ザ・ブランド」(乙第2号証)、昭和55年4月15日発行の「海外ファッション・ブランド総覧1980年版」(乙第3号証)、昭和59年9月25日発行の「ライセンス・ビジネスの多角的戦略’85」(乙第4号証)、昭和63年10月29日付の「日経流通新聞」記事(乙第5号証)のほか、昭和57年1月10日発行の「月刊アパレルファッション2月号別冊海外ファッション・ブランド総覧」(乙第15号証)の各記載及び弁論の全趣旨によれば、「アメリカ合衆国在住のデザイナーであるJは1967年に幅広ネクタイをデザインして注目され、翌1968年にポロ・ファッションズ社・・・を設立、ネクタイ、シャツ、セーター、靴、カバンなどのデザインをはじめ、トータルな展開を図ってきた。1971年には婦人服デザインにも進出し、『コティ賞』を1970年と1973年の2回受賞したのをはじめ、数々の賞を受賞した。1974年に映画『華麗なるギャツビー』の主演俳優Kの衣装デザインを担当したことから、アメリカを代表するデザイナーとしての地位を確立した。その頃から、その名前は我が国服飾業界においても知られるようになり、そのデザインに係る一群の商品には、横長四角形中に記載された『Polo』の文字と共に『by RALPH LAUREN』の文字及び馬に乗ったポロ競技のプレーヤーの図形の各商標が用いられ」(審決書5頁5行~6頁3行)たこと、「我が国においては西武百貨店が昭和51年にポロ社(注、ポロ・ファッションズ社)から使用許諾を受け同52年からJのデザインに係る紳士服、紳士靴、サングラス等の、同53年から婦人服の輸入、製造、販売を開始したこと」(同6頁10~14行)が認められる。

また、審決の挙示する前掲「男の一流品大図鑑」(乙第1号証)、「舶来ブランド事典’84ザ・ブランド」(乙第2号証)、昭和54年5月発行の「世界の一流品大図鑑’79年版」(乙第7号証)、昭和53年9月20日発行の「別冊チャネラー ファッション・ブランド年鑑’80年版」(乙第8号証)、昭和56年4月25日第二刷発行の「男の一流品大図鑑’81年版」(乙第9号証)、昭和55年6月20日第二刷発行の「世界の一流品大図鑑’80年版」(乙第10号証)、「MEN'S CLUB」昭和55年12月号(乙第11号証)、昭和56年6月20日第二刷発行の「世界の一流品大図鑑’81年版」(乙第12号証)、昭和60年6月25日第二刷発行の「流行ブランド図鑑」(乙第13号証)のほか、前示「月刊アパレルファッション2月号別冊海外ファッション・ブランド総覧」(乙第15号証)には、横長四角形中に記載された「Polo」の文字に「by RALPH LAUREN」又は「by Ralph Lauren」の文字を併記した商標、「POLO」、「Polo By Ralph Lauren」、「ポロ」等の各商標を掲記又は使用して、ポロ・ファッションズ社の販売又はJのデザインに係る被服類及び眼鏡製品に関する記事又はそれらの広告が掲載されている。

これらの事実によれば、前示「Polo」の文字に「by RALPH LAUREN」又は「by Ralph Lauren」の文字を併記した商標、「POLO」、「Polo By Ralph Lauren」、「ポロ」等の各商標は、ポロ・ファッションズ社の販売又はJのデザインに係る被服類及び眼鏡製品に使用するものとして、本願出願当時、わが国において周知・著名となるに至っていたものと認められ、また、その状態は現在まで継続していることが推認される。

なお、前示のとおり、ポロ・ファッションズ社の販売又はJのデザインに係る被服類及び眼鏡製品に使用される商標は、必ずしも引用商標「POLO」と構成又は称呼を同じくするものだけではないが、「Polo」の文字に「by RALPH LAUREN」又は「by Ralph Lauren」の文字を併記した構成よりなるもの、あるいは「Polo By Ralph Lauren」との構成よりなるものであっても、外観、称呼、観念の各観点からみて、取引者・需要者が「Polo」の文字部分に注目して、該部分より生じる称呼、観念をもって取引に当たることがむしろ多いであろうことはたやすく推認されるところであるから、引用商標それ自体についても、前示のように、本願出願当時、わが国において周知・著名となるに至っており、その状態が現在まで継続しているものと認められる。

他方、本願商標が「POLO」、「COUNTRY」のそれぞれ既成の意味を有する語を結合してなるものであって、かつ、全体として不可分一体の既成の観念を示すものとして広く認識されているものでないことは、審決の認定(審決書8頁14~18行)のとおりであり、そうすると、本願商標をその指定商品中の被服又は布製身回品に使用した場合には、これに接する取引者・需要者において、その構成中の「POLO」の文字部分に注目して周知・著名な引用商標を想起し、該商品が、J又は同人と組織的若しくは経済的に何らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように誤認することが十分に予想されるものといわざるを得ない。

そうすると、本願商標が商標法4条1項15号に該当するとした審決の判断に誤りはない。

(2)  商標公報(甲第6号証の1~11)には、いずれも指定商品を旧別表による第17類又は商標法施行令別表による第25類に属する商品として、「ポロ クラブ」(昭和52年10月8日登録出願、昭和56年10月15日出願公告)、「Polo Club」(昭和52年10月8日登録出願、昭和56年10月15日出願公告)、「POLO MALLET」(昭和54年7月21日登録出願、昭和57年3月2日出願公告)、「ポロウエスタン/POLOWESTERN」(昭和54年10月26日登録出願、昭和57年3月9日出願公告)、「POLOFIELD/ポロフィールド」(昭和57年11月26日登録出願、昭和59年7月9日出願公告)、「POLO LEAGUE/ポロリーグ」(昭和62年10月29日登録出願、平成元年2月10日出願公告)、「POLOHOUSE」(昭和57年1月5日登録出願、平成元年5月17日出願公告)、「POLOCHAMPS」(昭和63年10月19日登録出願、平成2年7月18日出願公告)、「POLOCOUNTRY」(平成元年7月5日登録出願、平成3年4月15日出願公告、2723627号商標)との各構成よりなる各商標の出願公告が掲載され、また、「POLOBROTHERS」(昭和63年6月27日登録出願、平成10年2月13日設定登録)、「POLOSOC」(平成8年5月28日登録出願、平成9年10月31日設定登録)、「Polowonder/ポロワンダー」(平成8年8月16日登録出願、平成9年12月5日設定登録)との各構成よりなる各商標の設定登録が掲載されており、さらに、登録異議の申立てについての決定(甲第7号証)には、前示「POLO LEAGUE/ポロリーグ」との構成よりなる商標について、商標法4条1項8号、15号に該当しない旨が記載され、平成4年審判第24593号事件の審決書(甲第8号証の1)には、指定商品を旧別表による第17類「被服(運動用特殊被服を除く。)、布製身回品(他の類に属するものを除く。)、寝具類(寝台を除く。)」とする「POLOCROCUS」との構成よりなる商標の登録出願(商願平3ー44133号)につき、該商標を登録すべき旨の審決が記載されている。そして、前示2723627号商標の登録出願から設定登録までの経過が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

しかしながら、これらの各商標が本願商標と構成を異にするものであることはもとより、その殆どは、登録出願の日が、本願商標の登録出願の日よりも相当程度前であって、その登録出願の日と引用商標が周知・著名性を獲得した時期との対比判断をする際の事情を本願商標の場合と異にするものであるから、これらの各商標が仮に設定登録に至ったとしても、本願商標が商標法4条1項15号に該当するとの判断を直ちに左右するものということはできない。

2  以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、66条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例